転生の樹/ただのみきや
いっぴきの幼虫が不器用に徘徊していた
どの世界にも出遅れるやつはいる
仲間たちの蛹と抜け殻そして
白い翅で空を舞う姿は
その眼にどう映ったか
狂おしく内から突き上げる欲求と
目の前に展開される不可能性との間で
複眼により倍増されるその光景は
蝶たちは枝にとまり
ぬれた翅をかわかして皺を伸ばし切ると
そよ風を相手にダンスのレッスン
すぐにでもパートナーを見つけるために
真新しく傷のない
白い翅を振りながら
枝に残された抜け殻はその体躯故に
卵の殻よりも骸を連想させる
あるいは棺か
完全変態
古きあり様の死と新たなる生の始まり
形も生き方も生きる場所も
その木は死と生で覆いつくされていた
蝶を芽吹かせ開花させ初夏の風に解き放つ
儀式ではなく本物の 転生のための聖なる木
(2023年6月3日)
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