ベルゼバブ。/田中宏輔
『あらたま』)
汗いでてなほ目ざめゐる夜は暗しうつつは深し蠅の飛ぶおと(『あらたま』)
ひたぶるに暗黒を飛ぶ蠅ひとつ障子(しやうじ)にあたる音ぞきこゆる(『あらたま』)
あづまねのみねの石はら真日(まひ)てれるけだもの糞(ぐそ)に蠅ひとつをり(『あらたま』)
ベルゼバブさまは、手を伸ばされると、気の狂った老人の頭をつまみ上げられて、壁に叩きつけられました。ゴンッという、大きな鈍い音とともに壁が揺れ、干からびた猿のような老人の死骸が床の上に落ちました。老人は声を上げる間もなく、絶命しておりました。治療室の白い壁の上に、血まみれの毛髪と肉片が貼りついておりま
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