『斎藤茂吉=蠅の王(ベルゼバブ)論』。/田中宏輔
暁紅』)
狼になりてねたましき喉笛(のどぶえ)を噛み切らむとき心和(なご)まむ (『愛の書簡』)
まことに陰惨な心象風景である。しかし、このようなこころの持ち主には、小胆な者が多い。そして、そういった人間は、しばしば神経症的な徴候を示し、病的ともいえる奇矯な振る舞いに及ぶことも少なくない。
この心葬り果てんと秀(ほ)の光る錐(きり)を畳に刺しにけるかも(『赤光』)
ふゆの日の今日(けふ)も暮れたりゐろりべに胡桃(くるみ)をつぶす独語(ひとりごと)いひて(『あらたま』)
このように病んだこころの持ち主が、
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