『斎藤茂吉=蠅の王(ベルゼバブ)論』。/田中宏輔
桃』)
昆虫の世界ことごとくあはれにて夜な夜なわれの燈火(ともしび)に来る(『白い山』)
砂の中に虫ひそむごとこのひと夜山中(やまなか)に来てわれは眠りぬ(『白桃』)
たまきはる命をはりし後世(のちのよ)に砂に生れて我は居るべし(『ともしび』)
これだけ昆虫を殺しながらも、その昆虫、あるいは、その昆虫の世界を哀れに思い、自身が昆虫に転生するような歌をもつくるのである。茂吉は、かなり振幅のはげしい嗜虐性と被虐性を併せ持った性格であったのだろう。
鼠等(ねずみら)を毒殺せむとけふ一夜(ひとよ)心楽しみわれは寝にけり (『暁紅
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