死者の数だけ歌がある/ただのみきや
る
時代に魅力的な傷口が
人々を酔わすのに十分な悲哀の蜜が
よく仕上げられた知識の張りぼての中
変態の途上ガス化して
瞳の奥をほの暗くゆらしている
事物との間には濁った光の茫漠
頭の中では火の時計が一刀ごとに
未来を切り落として過去の死肉とする
生(な)しても蛭子のようなことばばかり
さあシールをはがせ
世界に貼られた中古の影を
八重咲きの桜は細枝がたわむほど
ひとひら ひとひら
花びらを風に手渡すように
日差しの中で声もなく
歌は佇んでいる
なにかをかき回したいカラスが去り
つがいのムクドリは物色する
ときおり蝶が花びらをかすめ
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