新百合ヶ丘駅/アマメ庵
生まれるずっと前の出来事だ。
学生の私は、ビートルズを聴いていた。
母が使わなくなったカセットテープ。
松任谷由美、奥田民生、マライアキャリー、そしてビートルズ。
新百合ヶ丘駅のプラットフォームは寒かった。
細かい雨が屋根の隙間から舞い込んで、頬に触れた。
人々は寡黙で、黒い色のコートを着ていた。
駅のスピーカーが次に来る列車の情報を伝えていたが、誰もそれを聴いていなかった。
ビートルズのカセットテープ。
イヤホンを両耳に入れると、駅は色彩を帯びた。
人々はエンジや深い緑のコートを着て、青や黄色の傘を差した。
やがて人々はレンガ造りの建物の前を歩き出した。
ときおり
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