わたしたち死ぬと甘く軽い生きもの/片野晃司
春の日も夏の日も、そこに行けばそこに海辺があり磯があり、秋の日も冬の日も、そこに行けばそこに丘があり林があり、そこはいつもやわらかく甘い匂いが流れてくる場所。焼き場があるのだ。木陰のさしかかる三角屋根の下へ入っていくと、いままさに亡きがらが黒い円筒形の中へ運び入れられるところ。居並ぶ喪服のすき間から無邪気な子供のようにのぞき込んでみれば、白い手袋の職員が鋳鉄の蓋を閉め、体重をかけて頑丈な留め金を下げて、それから金づちをつかんでバルブの頭を一撃。ドン、大きな音と蒸気があがり、甘く香ばしい香りとともに炉の下からさらさらと白い粒があふれ出てくる、それを仕出し屋の屋号が書かれたクリーム色のトレイに受けて白
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