空から何かが/岡部淳太郎
 
空から何かが落ちて来る
そう思って心配して
夜も眠れない男がいた
周りの人々は男に対してそんなことはない
それは杞憂に過ぎないと言うのだが
男は相も変らず空から何かがと言って脅えるばかりだった

一年が経ち二年が経ち十年が経った
男が脅える何かはいっこうに落ちて来る気配がなかった
それでも男は空から何かがと言うばかりだった
その間も眠れずにいた男は そのために
通常よりもひどく年老いてしまい
夢を忘れたために生活もままならなくなっていった

やがて雨や雪や自殺者や桜の花びらばかりが
落ちて来るだけでそれ以外の何かが落ちて来ることもないまま
男は死に 永遠の叶わない夢
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