逃避ではなく殺害/ただのみきや
わたしは曇ったガラス窓
指先で書く文字の向こう
許容できない現実が冬の仮面をつける
ひとつの痛点が真空を真中から押し潰す
円く膨らむ響きの肢体 震えの侵食を
包む衣としてまなざしは海
水際で溺れる者 かもめの宣誓
救済は過去を美しく繕うこと
今を快楽ですりつぶし
未来に関心を寄せぬこと
慣用句を避けながらも江戸の庶民のように
流行りの端切れで繕ったものを自前の作とし
汗臭くすり切れた鼻緒でさるぐつわを噛ます気か
ああ無風 旗の死よ 標本箱五条三丁目15番3号
愛でることは死者の特権だ
振り向けば相殺される生に対し
獣の瞳 合わせ鏡
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