詩の日めくり 二〇二一年六月一日─三十一日/田中宏輔
 
六月九日 「偽の記憶」


 さいきん、記憶のなかに、偽の記憶がまじっていることに気がつくことが多い。論理的に考えると、記憶のほうが間違っていることに気づくということだ。齢をとって頭がボケてくると、この論理的に考えて詰めていくことをしなくなるのかもしれない。ボケることほど怖いものは、いまのぼくにはない。

 ラリー・ニーヴン&ジェリー・パーネル『インフェルノ─SF地獄篇─』読み終わった。ダンテの『神曲』の地獄篇の現代ヴァージョンかな。主人公のSF作家を地獄の出口まで案内するのは、ムッソリーニだったことがさいごのあたりでわかる。ダンテのと違って、ニーヴンの主人公は地獄の出口までは行くが、地
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