夜明け前を歩く/山人
 
ている。
 二〇一九年四月、大原スキー場は営業休止となったが、事実上の閉鎖であった。動くことのないリフトが雪に埋もれ、まだ古くはないスキーロッジが傍にある。彼らはその運命を呪うでもなく、ただの無機物として生きているのである。生命はないけれども、生を放出し、あらゆることに達観した日常があったのであろう。そこで、客のいないリフト搬器の雪を取り憑かれたように除去していた頃の労働が懐かしい。不毛ではあったが、それで糧を得ていたという現実が脈々とあったのである。
 スキー場から少し離れたところに佐々木さんの家がある。わずか一軒のために冬場はずっとそこの路線は除雪がされているのだが、冬場だけは一車線通行だ
[次のページ]
戻る   Point(4)