夜明け前を歩く/山人
行だった。それが増幅され、道がひらけていた。巨大な雪壁はすでに消滅し、おだやかな道が佐々木さんのところまで続いていた。
折り返し地点からは穏やかな下りとなる。独り言を言いながら妄想にふけることがある。あり得ない事柄を現実のように話してみたり。
奇跡はないわけではないと思う。現に一命をとりとめたこともあった。それは奇跡以外考えられなかった事例である。運が悪くて死んでしまった人がいる中で、死にそうになったけれども奇跡的に助かったという経験を体感した。なぜ、あの時に私は死なずに居たのだろうか、と思うことがある。それは、まだこれからあるかもしれないいくつかの奇跡のための生であったのではないだろうかと。そう思うことで日々救われることも少なくない。
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