夜明け前を歩く/山人
であっても慣れるとあたりの様子が幾分わかってくる。それと同時に聴覚が鋭敏になり、水の流れる音が聞こえ始める。百メートルほど歩くと左手に川があり、五〇年前に建設された砂防ダムから落下する水音が大きく聞こえてくる。まだ夜が明けないうちなのに、なぜか鴨が頭上を鳴きながら掛け飛んでいることが最近目立っている。川の中の虫でも啄んでいる最中に私の存在を知って飛び立っていったのであろうか。自然界の生きもの達はそうしてわずかな時間を利用し、食餌し生きているのだ。古い砂防ダムを過ぎると、大きな山容が見えてくる。二〇〇名山の守門岳である。猛禽がこれから飛び立たんとするように肩を怒らせて翼を広げる瞬間のようにそびえてい
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