ホメロスについての2,3のことがら/がらんどう
けるように」。
だが、聞き手は肝心のその名前を聞き損なう。そして、それに気付かぬまま、語り手は話を続ける。
「ではこれから、トロイアから帰国の折に、ゼウスがわたしの身に降された、悲惨な旅についても語らせていただこう」。
聞き手は名前を聞き逃したことに気付き、ただ物語の中から名前を拾い上げることにのみ気を巡らす。
それゆえに、名前以外の全てが、クロノスの祭壇へと捧げられることとなる。
そして、聞き手はやっとひとつの名前を耳にする。
「・・・・おぬしはわたしの名を知りたいというのだな。では名を言おう。わたしの名は「ウーティス」という。母も父も、仲間の誰もが、わたしのことを「ウーティス─誰も
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