ホメロスについての2,3のことがら/がらんどう
 
誰もいない─」と呼び慣わしているのだ」。


「詩人よ、見苦しくも盲いとなったお前の眼のことを訊ねるものがいたら、こう答えてやれ、それはイタケの住人、城取りの誉れも高き、ラエルテスが一子、オデュッセウスに潰された、とな。大地を揺るがす神といえども、お前の眼を癒すことのできぬのは確かだが、お前の息の根を止めて命を奪い、冥王の館へ送り込むことが、それと同じほど確かにできたら、どんなによかろう」。
盲目の詩人の息の根を止めることなど誰にもできないのだ。
なにせ、その詩人は「誰もいない」なのだから。
そして、その「誰もいない」盲目の詩人によって、オデュッセウスの暴虐は語り継がれることとなるのだ。



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