対話篇/やまうちあつし
 
則には逆らえない
私は黙って車を出した
バイパスは今頃
ちょうど渋滞の時間
家につくまで
一時間ほどはかかるだろう
「いったい何が残っただろう、
 なんて考えているんだろう?」
冷房が効き始めた車内で
黒ヒョウが口を開く
いつだってこちらの
心中をお見通しなのだ
いや、べつに
残らなくたってかまわない
「無理しなくていい
 だけど拙速な判断は禁物だぞ
 何が残るか、なんていうのは
 人類史を貫く根源的な問いだよ」
少しもたつきながら車線を変更し
渋滞の列に割り込む
黒ヒョウは言う
「最初の覚悟や決意など
 何の足しにもならないということさ
 人間はそれ
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