詩の日めくり 二〇一六年十一月一日─三十一日/田中宏輔
「名前」
ぼくは
ふと
手のひらのなかの小さな声に耳を傾けた
それは名前だった
名前は死んでいた
なぜ
そのひとときを
彼は
ぼくといっしょに過ごしたいと思ったのか。
そして
その疑問は
自分自身にも跳ね返ってくる。
なぜ
そのひとときを
ぼくは
彼といっしょに過ごしたいと思ったのか。
それが愛の行為だったのだろうか。
彼のよろこびは
ぼくのよろこびのためのものではなかった。
ぼくのよろこびもまた
彼のよろこびのためのものではなかった。
彼のよろこびは
彼のためのものだったし、
ぼくのよろこびは
ぼくのための
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