詩の日めくり 二〇一五年四月一日─三十一日/田中宏輔
書くこと。膝の痛みについて書く。「病人というものは、健康な人が見逃したものに気づくものだよ」(ジーン・ウルフ『拷問者の影』21、岡部博之訳)これに似た言葉をトーマス・マンも『ファウスト博士』のなかに書いていた。以前に論考のなかに引用したことがある。「健康でないからこそ、健康なひとが気づけなかったことに気づくことができる」というような言葉だったと思う。ところで、もしも人間の肉体がずっと健康で、ずっと若くて、けがや病気をしてもすぐに治ってしまうのなら、人間は、自分の肉体をぜんぜん大切にしないだろうと思う。痛みがなければ、なおさらのことだろう。ひとが、ひとのことを気づかうのも、何がきっかけで相手が機嫌を
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