月世界の旅行者/ホロウ・シカエルボク
始める、用があるわけでもないのに着替えて街に出る、本屋を覗いて何冊か買う、本屋を歩くのは好きだ、そういえば、去年あたりこの店で、ずっと店の中を歩き回っているだけのおばさんを何度か見たな、虚ろな目をしてさ、本には目もくれずにずっと歩いているんだ、何度か遭遇するうちに足音だけで分かるようになったよ、彼女はなにかを考えているのだろうか、その考えに脈絡はあるのだろうか、俺は彼女がそこを歩いている理由をずっと考えていた、仮に俺が脳味噌に支障が出るまで生きることが出来たら、彼女と同じようにこういう店を歩くかもしれないと思えて仕方がないのさ、ねえ、これは彼女の悪口じゃない、この世は無常なんだ、俺の家族の半分は気
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