月世界の旅行者/ホロウ・シカエルボク
 
は気が狂ってる、いや、もしかしたら、もうまともに暮らしているのは俺だけかもしれない、でも俺だって決してまともじゃない、病院の世話になる必要がないだけさ、俺は店を出る、俺の精神がままならなくなったら、それは果たして俺なのだろうか、それはただ、俺の名前のついたどんなものでもないいきものにすぎないのではないだろうか?不思議としつこく絡みつくその日の考え事は、午後の早い街を歩く様々な人間たちをぶよぶよの肉の塊に見せた、やれやれ、俺は頭を掻いた、こんな一生の終わりもあるのかもしれないな、なんて考えながら自販機で缶コーヒーを買い、プルタブを引き上げると一息で飲み干した、ごみ箱に捨てて昼飯のことを考えながら歩いた、個性を狂気だと片付けてしまうのは確かにシンプルだ、でもそんな結論、どんなものも生み出しはしないよな。


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