詩の日めくり 二〇一四年六月一日─三十一日/田中宏輔
 
ぼくに目をとめていて、ぼくのことをじっくりと眺めていることさえあるのだった。
 齢をとっていいことの一つに、ぼくが偶然をじっくりと見つめることができるように、偶然のほうでも、ぼくの目にとまりやすいように、足をとめてしばらく動かずにいてくれるようになったことがあげられる。

二〇一四年六月二日 「魂」

心音が途絶え
父の身体が浮き上がっていった。
いや、もう身体とは言えない。
遺体なのだ。
人間は死ぬと
魂と肉体が分離して
死んだ肉体が重さを失い
宙に浮かんで天国に行くのである。
病室の窓が開けられた。
仰向けになった父の死体が
窓から外に出ていき

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