第六七二夜の街/阪井マチ
》の外に出るとはどういうことなのか考え込む時間が訪れる。
ある者は、安全な場所から離れてはならないという教えには意味があると思いつつも、そもそも《街》とそれ以外との境界の位置をどうやって知ればいいのか、その手段を持たない我々が何を避けられるというのか、と悲痛な思いを抱いた。
またある住民は、あの朗読劇の内容は勝手の知らない場所で事故に遭ったというだけの昔からありふれた話に過ぎないと言う。年齢を重ねるにつれて、理由の無い失踪や未知の病、あるいは唐突な死に見舞われて家族や隣人が漸減していくことは全く特別なことでないと誰もが学ぶからだ。虚無などという荒唐無稽な概念を持ち込んだ神話に説明を求める必
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