第六七二夜の街/阪井マチ
る必要はどこにもない。共通の体験としての上演会は、しかし、この街の全ての人の考える基盤としての機能を果たしていた。
《街》の外側へ踏み出す者が現れたとき初めてそこに《街》の境界が引かれるのだという意見も根強かった。さらに言えば《街》の外部に出る人間の存在が《街》の存続には不可欠であり、誰も境界を踏み越えなくなったとき《街》は消滅する。だから犠牲者の苦悶を尻目に《街》の営みは粛々と続くし、境界が刻々と移り変わることで《街》自身の姿も日々歪み続けているのだ、と主張する者もいた。
いずれにせよ、この《街》の境界を知る者は誰一人いない。
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