第六七二夜の街/阪井マチ
 
たないのだ、と。
 ある年の《講師》は前年の出来事として、失踪していた郵便屋の子供二人が動物になり帰ってきた事例を明らかにした。
 自宅周辺の通路を走りまわる姿が隣人に目撃されたのを最後に、二人は姿を眩ましそのまま何週間も過ぎた。振り絞るような精力を傾けて家族による捜索が続けられたが、手掛かりすらも掴めず、苦く重い時間だけが過ぎていった。元は笑い合う声が家の外からでも聞こえるような、近所でも仲の良さを知られていた一家であったが、二人の失踪以降は楽しげな様子を何一つ窺えなくなっていた。
 しかしある日、自宅の前に《全身が赤い燃えるような毛並みで覆われた蛙》が立っており、扉を開けた家族を抱き締め
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