平衡/カンチェルスキス
 
在感を持って
 刻まれたはずの瞬間だった。
 でも二度と取り戻せなかった。
 自分の脳をどこかに置き忘れたみたいな感覚だった。
 あらゆるものが
 感じた先から
 なしくずしになっていった。




 女が動いた。
 窓に寄りかかってた頭を
 再びテーブルに戻した。
 かすかに寝息まで
 立ててるようだった。




 はじめから存在してなかったかのように
 ハンバーガー、ポテト、コーヒーは
 おれの前からなくなっていた。
 おれはポテトの箱に
 ハンバーガーの包みを丸め込め
 油のついた手を紙のナプキンで
 拭いた。




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