平衡/カンチェルスキス
ウンの中年の男が
テーブルを一つ挟んだ右側の席に
座り
フリーペーパーの求人誌を
読みはじめた。
おれはいつ自分はここから
立ち上がるのだろうと
考えていた。
この座席をいつ立つのか
ずっと考えていた。
古くて新しい問題だった。
もしかすると
一生座ってるかもしれないとも
思った。
あるかないかのタイミングを逃して
背骨も溶け頭蓋も溶け
椅子の上でビニールの燃えカスになった
自分を想像した。
恐ろしくなった。
長くいればいるほど
立ち上がりどきが
わからなくなっていった。
混乱した。
油のつ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(12)