夜の果ての墓/HAL
はない
絶望しているものが書物など書くはずはない
苦い呪詛の言葉が綿々とつづく本だったけれど
その憎悪は正真正銘の稀なるものだったとぼくは想う
でもなぜそこまで彼がすべてを
憎んだ理由はぼくにはわからない
でも彼の物語は確かに若いぼくの胸を撃った
彼の憎悪は世界を憎むぼくの心を粉砕した
『これは文学の本ではない。人生の本だ』
『この作品は、自分の人類愛から生まれたものだ』
との自らの言葉は正しい
彼は67年間夜の果てへの旅人だったのだろうか
彼はいまでも夜の果てへの旅をしているのだろうか
愚かなぼくにはその答えは見つけ出せない
ただ墓を視るためだけに
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