旧作アーカイブ3(二〇一六年二月)/石村
 
六年二月二十日)}



  麗らかな春


歌からうたへと 心は通ふ
夢から夢へと 季節は移る
僕ら どこへともなく 足をあゆませ――

うすい香りの 忘れな草が
微笑みながら 朝の挨拶を贈る
お前だけに きこえるやうに
「私を忘れないで」と
望みは ひとり 遠くの丘へと 解(ほど)けてゆく
生き急ぐ鳥たちに 目を送るお前

ほら ここには 何のかなしみもない
ふたりをせき立てる 予感のやうなものも
しかしちぎれてゆく雲の先に 翳はいつまでも去らない

祈りでさへなく ひとつの想ひを 僕は置く
僕の お前の みたされてある時は
ただここに 
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