旧作アーカイブ2(二〇一六年一月)/石村
 
もう嘆くことはなかつた

あかるい午後の みじかいまどろみの中で
かれもまた 同じ夢に目覚めた お前の声に

想ひはひとつに通ひ 何も告げる必要はなかつた
あかるい午後に ふたつの笑顔だけだつた

早い春の日のこと


(二〇一六年一月八日)




  春のリート


さやうなら そしてひとは行つてしまつた
さやうなら 春がもう そこまで近付いてゐる

地のうすい緑に 私は目をやる それから空に
私はこれを はなれることができない 数兆年の
愚かな思念で練り固められた このぶざまな塊を

さやうなら また君の声がきこえる
ああ それでも
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