秘法(第一巻)ほか九篇/石村
 




  冬支度


星あかり
しづかに

おろかなる
男ひとり
影を置く

月は凍つてゐて
ものみな息を凝らし
時の刻みに
耳傾ける
(硬い空気に何とも
 良く響くのだ それが)

 幼くて逝きし者たちの
 明澄さこそ羨ましい!

 何をか云はん
 俺よ 何をか云はん?

 老いさらばへた病み犬の
 今はの際の呟きか
 
 はたまた
 三匹の羊どもに逃げられた
 冴えない羊飼ひがこぼす
 愚痴でもあるか?

 どつちにせよ
 似たやうなもんだ
 冬の落葉にうづもれた
 こがね虫の乾いた死骸が
 ときをりからつ風に吹か
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