井戸を覗き込む/こたきひろし
 
から人の気配が失せていき、同時に明かりはなくなって行き周囲はますます暗闇に近づいていった。
その時、道の左側の町工場らしき建物から火の手が上がり始めていた。それは尋常ではない状況になりつつあったが
彼は構わずに歩き続けた。結果、川の堤防にたどり着いていた。
腐敗しているような水の匂いが鼻を歪めてきた。
それでも彼は階段をのぼりそこに延びる堤防の道から荒涼とした景色を眺めた。
その時始めて彼は月の明かりを感じた。
はるか遠くに電車の鉄橋が川の上にかかっていた。

すると堤防の上の道を若い女がたった一人で歩いてきた。彼の方に向かってきて、彼の側で足を止めた。
その女性は彼の姉だった。
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