井戸を覗き込む/こたきひろし
 


そんな夜は鉄橋を渡る電車の音を聞きたくなって外に出て街を歩き出した。
と言っても、歩き出すのは決まって深夜で既に鉄橋に電車が走らない時間だった。 
総武沿線の千葉にちかい東京の街。
歩けばその内に市街の景色は切り裂かれて、大きな川の堤防にたどり着く。

川に向かう途中で彼は巡回中のパトカーの職務質問を受け不審者扱いされたが上手に嘘をついて難を逃れた。その時彼のポケットにはナイフが入っていた筈だか、彼自身その事を忘れてしまっていた。だからごく自然に振る舞えたので警官は身体の検査までには至らなかった。
運よく解放された彼はふたたび歩き出した。

川が近づいてくるにつれて通りから
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