無の世界/卯左飛四
てみた
動かしたつもりだったけれど、何も動かなかったような気もする
足をぶらぶらさせてみたが、結果は同じこと
あるはずだと思っていたものが
もともとなかったのかもしれない
しばらくじっとしていた
どのくらいの時間、あるいは歳月
そこにそうしていたかは定かではない
何もないのだから何もしようがない
自分が生きているのか死んでいるのかさえも
何もない
何にもありゃしないんだ
ふっと遥か前方に
微かながら窓の灯りが見えるような気がした
ぼんやりした灯りは次第にはっきりした貌(かたち)を成してきた
それはいつも彼が本を読み耽っていた窓辺
いつものようにその姿は
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