まだ、だれもみたことはない/ホロウ・シカエルボク
うたう子供なんてほんとはどこにもいない
だれだっていつも
じぶんだけのうたをうたっているじゃないか
音階も、和音も、ときには歌詞すらないような
そんなうたはいつまでもうたっていられたじゃないか?
うすい窓ガラスが振動している
それはけしてとどかないどこかへの
強がりのように感じられる
ねえ、また台風が来るって言ってる
たとえ緊急速報が適切な情報をむりやりポケットになげこんできたところで
わたしたちのだれもがほんとうの避難場所など知ることはない
みちばたで血まみれで死んだクラスメイトの制服は
たくさんのひとたちの部屋のハンガーでゆらゆらとゆれている
ほんとうはみ
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