草の歌 ?/flygande
る。
くさきりはら橋、足音を知らせる。からだを失っても気付かない幽霊医者は患者をさがしていつまでも歩けども、歩けども続くのは青空と道ばかり。魚獲りを辞めた漁村では蜂や花がせわしなく勤めあげ、村人は病を眺めながら濃く熟れた西瓜を吸った。かつて握った患者たちの掌のつめたさあたたかさ。海はきらめき、波がどこかで破砕する。岩に腰掛け、幽霊医者は聴診器を空に宛てる。その存在感は畑に吸われ、森に吸われ、雲に吸われ、やわらかなことは残酷だった。ならば石橋だけが摂理に反し、さびしい幽霊の足跡(そくせき)を数える。北(kita)、事(koto)、簡(kan)、夙(tsuto)、紺(kon)、菌(kin)
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