鉄塔/まーつん
見知らぬ人々の日常を撮影した
記憶のフィルムの
ワンカット、ワンカットが
私の心に押し入ってくる
頭を振って
目をしばたかせながら
再び空を見上げると
今、一羽のカラスが
嘴に誰かの記憶をはためかせて
鉄塔に舞い戻ってきた
そして
キラキラと光るその布きれを
遥か高みの一角にある鉄骨の繋ぎ目に
器用に結わえつけている
ああ、そうかと私は腑に落ちた
ある種のカラスには、
光る物を集める習性がある
どこかの子供が公園に置き忘れた
ビー玉とか
うっかり者のポケットから落ちた
キーホルダーとか
あのカラスは
今はもうここにはいない人
[次のページ]
戻る 編 削 Point(5)