鉄塔/まーつん
 


見知らぬ人々の日常を撮影した
記憶のフィルムの
ワンカット、ワンカットが
私の心に押し入ってくる

頭を振って
目をしばたかせながら
再び空を見上げると

今、一羽のカラスが
嘴に誰かの記憶をはためかせて
鉄塔に舞い戻ってきた

そして
キラキラと光るその布きれを
遥か高みの一角にある鉄骨の繋ぎ目に
器用に結わえつけている

ああ、そうかと私は腑に落ちた
ある種のカラスには、
光る物を集める習性がある

どこかの子供が公園に置き忘れた
ビー玉とか
うっかり者のポケットから落ちた
キーホルダーとか

あのカラスは
今はもうここにはいない人
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