鉄塔/まーつん
い人々が
日々の営みのなかでなくしてしまった
思い出を集めてきているのだ、と
楽しさや、切なさが伴い、
滑らかなシルクのように
美しい輝きを放つ記憶を
もしかしたら、あのカラスは
花嫁を探している若い雄で
どこかの雌の気を惹くために、
変わった光物で
巣を飾っているのかも
鳥の生活など知らないが、
私は勝手にそう解釈した
鳥の小さなシルエットと
恐竜の遺骨を思わせる
鉄塔の威容
だが小さな生き物が
せっせと飾り立てることで
鉄骨は、ただ虚しいだけの
何かではなくなった
私は、芝生に腰を下ろした
景色のパノラマを見渡しながら
旅路に疲れた足を地べたに投げ出し
煙草に火をつけた
カラスよ、
私の思い出は盗むなよ
大して輝いてもいないし、
そう多くもないのだから
だが
鳥のお前にも分かることに
私は今、気が付いたよ
ささやかではあっても
幸福な思い出だけが
人が持ちうる
色褪せない宝なのだと
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