NOBUKO/吉岡孝次
生日を迎える冬
紀伊國屋ホールの喜劇にも
横浜そごうの展覧会にも
道は切り口は展望台は児童公園はなかったようです
それよりもNOBUKOさん
今はただあなたの
遠い生殖器に耳を当てたい
僕の部屋からは多摩川の丘陵に建つ
団地や家屋の灯りが船の窓のように夜空の裾を飾っています
あなたに見せれば
僕とは違う新しい海が広がるかも知れません
今年の夏 星にむせかえる島の空に包まれて
迎えたあなたの初潮
白く冷えた堤防に腰を掛け
足下をたゆたう波の音を聞きながら
一人血に濡れたあなたに
せめて
風景の悲しみ
その悲しみからたちのぼる切ない香気が
あなたを少女の昏迷から訣
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