羽音の思惑(かべのなかから)/ホロウ・シカエルボク
大きく上下し
すっと前方へと進んで振り返った、「ついてこい」とでも言うように
どのみち向かう方向は同じだった、おれはまた歩き始めた
蜻蛉は常におれの一メートルほど先を飛んでは待っていた
それは本当に道案内をしているみたいに見えた、どこかの執事みたいだった
ただ生える植物、ただ群れる動物たちの中で、俺と蜻蛉だけが違う種類だった
蜻蛉の先導は十分ほど続いた、そしてそいつが立ち止まったその場所には
草に隠れるようにして山肌にぽっかりと口を開けた洞窟があった
「またトンネルなのか?」冗談だったが、あまりうまくなかった
蜻蛉ですら知らないふりをした、「入るんだよな?」なにもなかったように俺
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