【批評ギルド】原口昇平「とりあう手」について/田代深子
 
の後に続けるのもいい。だがその物語からは、兵士と少女のほかの、やはり何かがこぼれおちているだろう。なにかを選んで手にすくいとれば、必ず指の隙間からこぼれるものがある。いくらひろっても。
 いささか物語する者を容赦したい心持ちがある。それはわれわれ自身のことであるからだ。待て、物語は、傲慢ではなく絶望から生まれてくるのだ、と。物語はどれもよく似ている。それ自体が自律し、人をして語らしめるかのようだ。だがそうではなく、われわれの、結末を想定し留保なしの意味づけを行わなければやっていけない、という絶望が、かなしく美しい物語を生みだす。変えることのできない過去に向かって、それを意味づけする作業をやめるこ
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