妻の夫/渡辺八畳@祝儀敷
 
待券をもらい店内のガラス戸に貼りついている
妻は軽自動車のシフトレバーをいじっている間にビルの上へ昇っている
妻はお隣の奥さんと井戸端会議をしながら桃の缶詰に指で穴を開けている

居間のカマドウマは虫だ
目ん玉は真っ黒くて部屋を反射している
意思というものはそこにはない
かさこそと少しだけ動く
あまりかわいいものではない
物音こそたてるが
カマドウマが鳴くことはない
私はふすま挟んで寝室にいる
ふとんが二枚敷かれたままだ
一つは妻の、もう一つは自分の
私は敷ぶとんの上にあぐらをかいている
掛けぶとんはちゃんと足元のほうに折り
上に座って羽毛をつぶさないようにしている
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