いつか見た映画みたいに/ホロウ・シカエルボク
談で済んだかもしれない。だがその時のヨシオにはそれはあまりに強烈なビジョンだった。ヨシオはそのイメージを振り払うために懸命に働き、キヨミの顔を一目見るために家に帰った。二日ぶりに見るヨシオのやつれた様子に、一日だけでも休んだ方が良いと忠告したが、ヨシオは黙って首を横に振り、風呂を済ませて食事をするとすぐに眠ってしまい、次の日生身の亡霊のように出かけて行った。キヨミはその背中を家に引っ張り込みたくなるのを懸命に我慢した。その日からずっと、ヨシオは自分の指が噛み千切られるイメージに悩まされるようになった。血のようなケチャップ、指先のようなウィンナー、流しの中で鈍い音を立てる皿やコーヒーカップは、朦朧と
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