そのとき初めてその色を知るだろう(静かに語りかけるような音とともに)/ホロウ・シカエルボク
部屋では寄り付く虫も居ない、だから俺は夏にはあまり書かない―引き抜いた血管と神経の跡地にシリコンを流し込む、「本当の」オブジェをこしらえるのさ…このプロセスにはお手本がある、数年前に見たんだ…空になった蟻の巣穴に溶けたアルミニウムを流し込むんだ、素敵な造形があらわになるぜ…俺はそれをてめえの空き物件でやろうというわけさ、凝固するまでしばらくの間お待ちください―血の記憶がある、小さなころは頻繁に鼻血を流していた、理由もなく、原因もなく、ある瞬間に突然流れ始める、おかげで夏の記憶は、砂地に落ちていく血液の冠ばかりだ、そんな記憶に包まれていたせいか、俺には血を処理しない癖がある、たとえば刃物で指を切った
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