佐峰存詩集『対岸へと』について/葉leaf
 
ままに表現する言葉が「発酵」だったのである。「空気の発酵」は一見視覚的なようでありながら、それよりももっと深い空気の独特の態様に触れることにより生み出される表現であろう。
 さて、詩人が自己に対して臨床的にふるまうことにより詩が生まれ、読者はその詩を臨床的に読む。この二重の臨床性の現場ではいったい何が起こっているのか。

呼吸に茂らせた 葉の裏側に
指が産みつけた 小さな卵
胸から唇へと繋ぐ回廊を
飾られた食卓も 足を覆う革靴も
鏡の中で剃り上げた脈も
振り切って思念は走る
一枚の告解を こわさないように
      (「指に念じる」)

 詩人が自己に対し臨床的にふるまう
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