佐峰存詩集『対岸へと』について/葉leaf
 
聴きその手触りを感じつくすのである。
 詩はそのような臨床的な空間から生まれるので、必ずしも分かりやすい表現にはならないし、過不足なく情報を伝える紋切り型の表現にもならない。様々な余剰や揺らぎや矛盾を反映したものとして詩は表現されるのである。詩がしばしば難解になるのは、詩が作られる空間の臨床性によるといってよい。

木々の皺に 傾いた石の反射に
空気の発酵に 生物の断絶を宿らせて
あなたも
雨の匂いを吸っているのだ
      (「雨の匂い」)

 例えば「空気の発酵」を単純に見ることはできるだろうか。そうではなく、詩人が自己の中に渦巻いている空気の一つの態様をいちばんありのまま
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