佐峰存詩集『対岸へと』について/葉leaf
モデルだけで処理できるものではないことを示そうと思う。むしろ、佐峰は風景の描写に、敢えて視覚をかく乱する要素を取り入れているように思われる。そして、佐峰の詩の魅力もまた、単純に視覚モデルで処理できない臨床的な空間を広げることに由来すると思うのである。詩の受容における臨床的な空間は豊饒な空間であるが、それを作り上げるためには読者の態度のみならず詩人の態度も必要なのである。
引用部では、「私とあなたの影」が動き出し行方不明になる。これを文字通り視覚的な映像でとらえると、ただ人間から影が分離されて動くという珍妙な映像が出来上がるだけである。そうではなく、この引用部は、「影」の忙しない雰囲気を肌で感じ
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