チューしてあげる/島中 充
かった。自分がチューしてやると言った事が先生やみんなに知れるのがきっと嫌だったに違いないとぼくは思った。
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どうした訳か、ケイコにはあだ名がなかった。あだ名になるべき特徴は山ほどあるのだが、ひとつひとつがあまりに際立っていた。例えば、みず鼻を垂らしているのでその形から「なめくじ」と付けると、次に控えているへちまとか、鼻ばかり咬んでいる「鼻ブー」が死んでしまった。色々なあだ名が次々に付けられても、すぐに消えてしまった。呼ぶときには、あだ名ではなくケイコ、ケイコとみんなは名前で呼んだ。そして、自分でも、
「ケイコはね、ケイコはね」としゃべった。五年生にもなって、自分の事を
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