チューしてあげる/島中 充
 
知っているのだから。さらし者になって、頭を下げ、ケイコと握手しなければならないのだから。ケイコにやさしい、正しいエライ人だと思われるためにだけ、きのうなぐって、ごめんなさい、と今あやまるなんて、馬鹿らしい。ぼくは隣のケイコを無視しようと努めた。そして、せめてこのようになったら、ケイコにだけは、きのうの事をぼくが後悔しているのを知られたくなかった。今まで、馬鹿あつかいしていたやつに、振り回されている自分を気付かれたくなかった。どうせ頭を下げ、あやまるのなら、それは本心からあやまるのではなく、仕方のない演技としてあやまる方が、格好がよく、自分の自尊心を保てる気がしていた。そうすることによって、いまだに
[次のページ]
戻る   Point(1)