チューしてあげる/島中 充
 
がるような目で、言い付けないでほしいと見つめた。ケイコもストーブでほてった赤い顔をこちらに向けている。目じりに、合図でもするようにうすらわらいの小さなしわをケイコはつくった。ああもうだめだ。ぼくは視線を外した。ケイコは、いつもは班長、あるいはれき岩と呼び、ナカムラくんとくんをつけてまで正確に名前を呼んだことなど一度もなかった。ぼくは目じりのしわを、うすら笑いを、先生に言い付けてやったと言う表情と思うしかなかった。くんを付けたのは覚悟をして置きなさいという脅しなのだと考えた。今までぼくはケイコにああしろ、こうしろと命令していたが、今ではもう、ケイコの顔色やようすをうかがって、ケイコからああしろ、こう
[次のページ]
戻る   Point(1)