チューしてあげる/島中 充
たかせ、頭の中を混乱させていた。うつむいて、ぼくは教室の引き戸をゆっくり引き、敷居をまたいだ。ストーブの暖かい空気と和やかな話し声。クラスのようすに聞き耳をたてながら、ケイコを探して教室中を見渡した。
「ナカムラくん。おはよう」ストーブを囲む輪の中から、ひときわ背が高くて、頭をこっくりと下げているケイコの大きな声が飛び込んできた。声の大きさに教室のざわめきが一瞬、途切れた。ストーブの輪がいっせいに赤いほてった顔を、ぼくに向けた。ぼくはおはよう、と返事する言葉がのどにひっかかり、陸に上がった魚のように口をパクパクさせてしまった。言い付けたのかどうかを最初に探らなくてはならない。ケイコをじっとすがる
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